Bow-wow!No.19_闘病−最期の時


病の兆候は2010年3月には見えていた。
血尿に気がついたのだ。

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当初から、膀胱炎かなと思いつつ病院へ連れて行った。
先生も同様に思ったのかもしれない。薬を与えてくれた。
我々はこれでしばらくすれば血尿もおさまると考えた。

しかし、血尿は止まらなかった。
薬は週ごとに様子を見ながら、だんだんと強い薬に変えられていった。

だが、血尿は止まらなかった。

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季節は桜も散る4月の終わりになっていた。
エコーによる検査を提案され、一も二もなくお願いした。

それはその検査で見つかった。

膀胱の中に2センチ×4センチの腫瘍ができていて、そこから出血しているようだった。
発見まで1ヶ月以上かかってしまった。

今から思えばベルの命運はその時点で決まっていたのかもしれない。
いや、それ以前に、血尿が出ている時点でもはや遅かったのかもしれない。

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膀胱の腫瘍は悪性か良性かわからなかった。
@noriには「取り除かなければ」という思いがあった。
主治医も同意見で、ベルは手術することになった。

そうこうしているうちに2010年5月6日、ベルは12歳を迎えた。
名実ともに御長寿犬の仲間入りであった。

12歳という年齢で手術を受けさせるのは正直迷いもあった。
麻酔から覚めるだろうか?
あとどれほどの寿命が残っているというのか?

しかし、ベルは12歳にしては元気で、それは主治医も認めるところだった。
@noriは、もしかしたら15歳くらいまで生きてくれるのではないかと思っていたのだ。それほどまでにベルは元気なわんこだったのだ。
いや、もしかすると、そう思い込んでいただけかもしれない。

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5月半ば、膀胱の腫瘍摘出手術。腫瘍の検査。結果、悪性。
膀胱ガンであったことが判明する。
しかし手術自体は成功。これでベルは命をつないだはずであった。
家族も安堵したものだった。

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6月。手術後1ヶ月目の検査。
血尿は止まった。しかし、脾臓に腫瘍らしきものが見つかった。

ガンの転移である。

また、手術?
ついこのあいだ、おなかを切ったばかりなのに?
手術で剃られた被毛も伸びきっていないのに?
12歳のベルに立て続け、2度目の手術が耐えられるのか?

しかし。
しかし、手術をせざるをえない。
脾臓の腫瘍はおそらく転移ガンである。ほおってはおけない。

痛々しい姿のベルは、再び手術することになった。

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7月。転移脾臓ガン摘出手術。
ベルは手術に耐えた。強い子であった。
もうどこも悪くなりませんように。

前回の手術後もそうだったが、術後、1ヶ月くらいは元気がない。で、1ヶ月くらいするとダメージから回復したように元気になってくる。やはり手術というのは高齢犬にはつらいのだ。

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1ヵ月が経ち元気を取り戻したベル。再び手術後の検査に。8月になっていた。
主治医は暗い顔をした。残念そうな口調で告げた。

肝臓に数箇所、小さな腫瘍の芽がある。
うちふたつは1センチほど。
前回の検査の時は肝臓はきれいだったのだが・・・。
(ちなみに肺への転移は今回もなかった)

沈黙する@noriとベルのはは。重苦しい沈黙。
3度目の手術。しかも今度は沈黙の臓器、肝臓。

これ以上、ベルをきりきざむのはやめてほしい・・・。
病院の費用も家計を相当に圧迫していた・・・。

主治医が力のない声で言う。
手術されるかどうか、ご家族で相談してください。
手術するときはCTでガンの位置を特定する必要があるとのこと。
しかしガンがとりきれるかどうか、他に転移がないかはわからない。

主治医の声はほんとうに力なく聞こえた。
これまで主治医はガンを見つけたとき、「手術でとる」という強い意思表示を見せていた。
が、今回はそれがなかった。感じられなかった。

@noriは思った。
今回は難しいのだ。
あるいは今回ガンを取ったとしても、転移ガンとのいたちごっこになるのかもしれない。

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悩んだ。
悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで。

数日後、主治医に手術のためのCTをうけることにすると連絡した。
つまり3度目の手術を受けることに決めたのだ。
これが最期の手術だ。結果がどうなってもこれで最期の手術。
次に転移ガンが見つかったとしても、これ以上、ベルに痛い思いはさせない。
だからベル、我慢してくれよ。
まだ、おまえと別れたくないんだ。
飼い主のわがままを許してくれ・・・。
そう言い聞かせて、悩んだ挙句に出した答えだった。

答えを告げると主治医は、副医院長と協議して連絡しますと言った。
8月も終わりになろうとしていた。

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翌日、主治医から電話があった。
いわく、今回、手術をしてうまくとれたとしても転移している可能性は残る。
ベルの年齢も考慮して手術は薦めないとの内容であった。

@noriは妙にすっきりしていた。
これでベルに痛い目をさせずに済む。
それだけが良い報せだった。

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9月になり2度目の手術ダメージからも回復したベルは元気になった。
元気になったように見えた。
その実、見えないところではガンは進行していることも事実だった。
今思えばわずかな期間だったが、この時期が手術後で一番幸福な時期だったかもしれない。

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手術という手段がなくなり西洋医学から見放されたベルであったが、@noriはあきらめてはいなかった。
西洋医学がダメなら東洋医学がある。
ガンに効くといわれるアガリクスはどうか?ガンを退治できなくとも共存して寿命を全うできれば・・・。@noriはそう考えていた。

主治医からイムノブロンという薬があることを聞き、調達してベルに飲ませ始めた。
免疫力の向上に役立つとのふれこみだった。
その他、ガンに効くと思われるものは試してみた。
ネット上の友人たちの励まし、協力は本当にありがたいものだった。

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ベルは朝早くに啼くようになった。
ガンが痛いのか、手術以降、家族とは別に眠るようになったので寂しいのか、わからない。

9月の末にはご飯を食べないようになった。
家族は心配したがどうしようもなかった。
食べられそうなものを買ってきて食べさせた。
食べれるものだけでもいいから食べるんだよ。
薬は飲まなくなった。

やがてベルは歩けなくなり、そして立ち上がれなくなった。

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そして10月を迎え、あの日を迎えることになる。
それは2010年10月9日、土曜日。

もしかするとこの日がベルの命日になっていたかもしれない。

昼過ぎから呼吸が荒くなり、舌をだして苦しみ始めた。
舌には血の気がない。目もうつろである。
診察時間外だが動物病院に電話する。
主治医は今日は非番だったが、以前に見てくれていた女医が往診にいくと言ってくれた。
が、クルマで連れて行ったほうが早いのでベルを抱えてすぐに家を出た。

女医はベルを診察しながら言った。危ないです、と。

延命治療はしないと決めていた。
ガンだから最期は相当痛むと聞いていた。
安楽死も考えなければならないと、主治医も言っていた。
でも、今、そんなこと決められない。心の準備なんてできていない!

痛みだけ、痛みだけ和らげる薬はないですか!?

延命治療はそれだけ苦しみを長引かせることにもなる。
ステロイドという薬を注射しながら女医は言った。
容態が急変することもある、とも言った。
状況は主治医にも伝えておきます、と女医は言ってくれた。

その日、かつクンは夜勤で帰らない日だった。
携帯メールでベルが危ないことを報せた。
かつクンからは安否を尋ねる携帯メールが何度か届いた。

次の日、ベルの容態はしだいに落ち着き、危機をしのいだようだった。
かつクンは残業があったのを断り、朝一番に帰ってきた。

振り返れば、この日にベルが死んでいても不思議ではなかった。
今から思えば、この日以後のベルは、家族に自分の死を覚悟させるために生き抜いたようなものだった。

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ベルは夜鳴きが多くなり、日に何度となく、ひどいときには30分おきに啼き出すようになった。
そのたびにベルのははは起きて、からだをさすってやった。そうするとなきやむのである。

やがて食べられるものはカステラくらいになった。
シリンジで子犬用のミルクを与えた。
水も自分で飲めなくなっていき、シリンジで定期的に与えるようになった。

だんだんとできることが減っていき、だんだんとできないことが増えていくベルだった。

それでも、何もできなくてもベルがいるだけで家族はうれしかった。
おはよう、ベル、とからだを撫で、ただいま、ベル、と抱きしめた。

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2010年10月25日、午後7時半、ベルは苦しみ出し、あっけなく逝ってしまった。

啼きだしたベルをベルのははは撫でてやっていた。
いつもならじきに啼き止むはずなのに苦しそうに息をしていた。
なかなか啼き止まないとベルのははが言った。
本を読んでいた@noriも様子がおかしいと思い、ベルの傍らに座り込んで様子を見た。
呼吸が激しかった。舌が力なくはみ出していた。

10月9日のことを思い出した。

TVゲームをしていたかつクンに声をかけた。
ベル、危ないかもしれない。自分が言ったとは思えない声だった。

かつクンもすぐに来て、苦しむベルの頭のところに座り込んでベルに声をかけた。
家族がベルを取り囲んで、声をかけ続けていた。

動物病院に電話をした。診療時間が終わっていて繋がらなかった。
もしものときのために聞いていた主治医の携帯電話にかけた。
電話は繋がらず留守番電話に繋がった。
ベルのははがベルの様子を留守番電話に残しているとき、ベルがからだをこわばらせた。

@noriはベルの前足、手のひらをつかんだ。それでベルが痙攣を起こしていることを知った。
痙攣してる!皆に伝える。ベルを呼ぶ。何度も呼ぶ!

やがてベルはからだを少し折り曲げるような、力を込めた体勢になって、次の瞬間、息を吐いて脱力していく。
ベルが死んでいくのが、ベルの生命力が消えていくのがわかった。
胸がいっぱいになった。涙があふれ、止まらなかった。
どうしようもない事実が目の前につきつけられる。
ベルは、今、死んだ!

何秒か後、死んだベルが口を開けて首をまわす動きをした。そして二度と動かなくなった。
死後に起きる反射だった。これは人間でもおきる。犬も同じなんだ。

オムツからうんこがはみでていた。見たこともないほど、つやつやの真っ黒なうんこだった。
ほとんど何も食べていないベルだった。
オムツをはずしてやると暗いオレンジ色のおしっこがでてきた。
それは何かがゆるんだので出てきた、という感じの、勢いのないものだった。
気がついて時計を見た。午後8時だった。
口からはみ出た舌を、口の中に戻してやった。
頭を撫でてやった。からだを撫でてやった。何もかもがいとおしいベルだった。

皆、泣いていた。
かつクンが、ベル、ありがとうと言った。
皆、涙がとまらなかった。

がんばったな。よくがんばったな。えらかったな。いい子だったな。かしこかったな。やさしい子だったな。ありがとうな。ありがとうな。

無理やり薬を飲ませてごめんよ。ミルクも無理やり飲ませてごめんよ。まだ、生きて欲しかったんだ。まだまだ生きて欲しかったんだ。こんなにあっけなく死んじゃうって知っていたら、薬もミルクも飲ませなかったのに・・・。ごめんよ。ごめんよ、ベル・・・。

もっともっと生きていて欲しかった・・・・。

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2010年5月、7月と膀胱ガン、転移脾臓ガンの二度の開腹手術。
8月、肝臓にガンが再び転移。
それから2ヶ月、ベルはがんばった。

2010年10月25日(月)20時、家族の見守る中、旅立った。
12年と5ヶ月20日の生涯だった。
ありがとう、ベル
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老犬と暮らしておられる方もたくさんいらっしゃると思います。
様子がおかしいと思われたらすぐに検査をしてやってください。
エコー検査はCTなんかとは違いそれほど費用のかからない検査です。
ペットの高齢化でガンも多くなっているようです。
医師に検査を願い出ましょう。

どうか、あなたの愛犬が天命を全うできますよう、心からお祈りします。
そのための手をどうぞ尽くしてあげてください。

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ベルのははの日記」を見ると当時の様子がよくわかります。
老犬介護は大変だったけど、十分手を尽くしたという思いもあるので満足です。(^^)


Last updated: 2010/12/04
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