Bow-wow!No.3-「ゆき」の思い出

昔話を一つ。15年くらい前の話です。



その犬の名は「ゆき」といいました。
彼はあるスーパーのたこ焼き屋の裏に兄弟たちといっしょに捨てられていました。
シェパードが混じっているような、柴犬系の雑種の子犬でした。
拾ってきたのは弟でした。

両親は飼うことに反対でした。理由は「世話ができないから」
ボクも妹も無理だと思いました。(^^;)
でも弟は飼い始めました。世話は自分がすると言って。

子犬は子犬。なんだかんだと言っても「かわいい」!
弟もボクもゆきに「お手」やら「お座り」を教え、鎖をつないで散歩に行ったりしました。
でも、それも小さいときだけ。
やがて飽きてきたのかみんなゆきと過ごす時間は減っていきました。
そしてそれは弟も同じでした。

成長したゆきは中型の犬になりました。

弟は仕事などで夜遅くに帰ってくることが多くなりました。
それでも夜中にゆきと遊んでやったり、買ってきたおやつを与えたりしていました。
母親はなにかとゆきの面倒を見ていました。
ゆきは家の外で飼われていましたが、
寂しくなったり、お腹がすいたりすると台所に顔を覗かせました。
母親はそのたびにフードをやったり、おやつをやったりしていました。

ゆきは鎖でつながれて、散歩も満足につれていってもらえませんでした。
だからたまに散歩につれていくと、非常に喜んで、ものすごい勢いでひっぱり、
そのたびに頭をたたかれて、怒られていました。
遊んでやると甘がみをはじめ、やっぱり頭をたたかれて怒られていました。

ゆきは気の弱そうな目をした犬になりました。

それでもゆきは家族の者が大好きでした。
家族の者が帰ってくるとしっぽをゆるゆると振って
遊んでもらいたそうなそぶりを見せました。
でも、遊んでもらえないということもわかっているようでした。

やがてボクは結婚し、家を出ました。
たまに実家に帰るとゆきはしっぽを振って迎えてくれました。

しばらくして、我が家に子供(かつクン)が生まれました。
両親は孫の顔を見に遊びに来ました。
そしてゆきが死んだことを聞かされました。
「心臓に虫がたまって死んだ」と言っていましたからフィラリアにかかったのでしょう。
そういえば獣医とは無縁の家でした。狂犬病の予防注射だけは行ってましたが・・。

ゆきが死んだと聞かされたとき、ボクは平静な顔をしていました。
でも、大きなショックを受けていました。



ゆきがかわいそうだと思われる人もおられるでしょう。
ゆきの飼い主たちに怒りを覚える人もいるかもしれません。
あるいはゆきのような犬をご存じの方もいるかもしれません。
もしかするとゆきと同じような境遇の犬はあんがい多いのかもしれません。

犬を飼うというのは思うより大変です。
犬を飼いたい!と思っていると、犬との生活のたいへんな部分に目がいかない状態、
想像力が働かない状態になってしまいがちです。

休みの日は犬をつれて公園に散歩して、夏は海辺でフリスビーをして・・
楽しい事柄は次から次へと浮かんできますけど、
実際の生活がどうしても想像できない状態になります。
ましてやこれまで犬を飼ったことがなければなおさらです。

何のために犬を飼うのでしょう。
世話は大変なのに。

平日、仕事に行っているあいだは誰が世話をするのか。
しつけはきちんとできるだろうか。
散歩は毎日いくことができるだろうか。
フード代や病院の費用はまかなえるだろうか。
糞尿の後始末はきちんとできるだろうか。
近所から苦情が来ないようにできるだろうか
今は小さくてかわいらしい子犬も1年で大人になる、ということを理解しているだろうか。
犬が年をとって、もし歩けなくなったら、、その時もきちんと世話できるだろうか。

課題はたくさんあります。
でも、犬との生活はホントにすばらしい!!
(心配や思わぬ出費もあるけれど(^^;))

犬を飼うのを思いとどまりなさいといっているのではありません。
むしろよく考えて、犬にとって良い飼い主であってくださいと願っているのです。
犬の幸福は多分に飼い主によって決まるからです。

犬はおもちゃでも奴隷でも機械でもありません。
生きており、考え、愛されることを願っているのです。
それを決して、忘れてはいけない。忘れないでください。
犬は飼い主にきっと良いものを返してくれるでしょう。(^-^)



ゆきは不幸だった、、?
そうですね。。。。もっと良い飼い主に巡り会えたらもっと幸福になったかも。
でも、弟が拾って帰らなければ、ゆきは(兄弟たちも)保健所で処分されていたかも知れません。
また、ゆきには世話はあまりしてもらえなかったかも知れないけど
自分の「群」、居場所がありました。

もしも今、ゆきに会うことがあったなら、、そして彼がボクを覚えていたなら、、
やっぱり、気の弱そうな目で見上げながら、ゆるゆるとしっぽを振ってくれると思うのです。


2000/05/20

あとがき
Bow-wow!を始めたのはこの話しを書きたかったからかもしれません。「お手はいかが?」を始めた当初から、いつかは書くことになると思っていたことです。残念なことに「ゆき」の写真がどうしても見つからないんです。また、探してみますけれど・・・。是非、載せたいと思っていたんですが・・・・
(「飼う」と決まっても、その後に家庭の状況が変化することもあります。その時はその時。最善策を探しましょう!!(^^)!)

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